Ryoji Suzuki Memo

ひとつ


たったひとつのこと。そこで起きていること、それが一人の目の前であっても、複数人の目の前であっても、限られたスペースであっても、その大きさがどんなに小さくてもまたどんなに大きくてもひとつの真実だ。そこで起きた、もしくはそこで起きているたったひとつの真実。それは見る人の目で、感じる人の心で、そこに一人しかいなくても、また数えきれないほどの人がいたとしても、目に映ること、聴こえること、感じ方、受け取り方、好き嫌い、思うこと、どこをとっても同じひとつのことになんかならない。誰が見ても誰が聴いても誰がどう感じても同じことになることなどあり得ない真実を、たったひとつの真実を、毎瞬毎瞬生み出すことがある、それは私の場合はひとつの音として。そのひとつの音を生み出す私でさえ、たった一人でしかない私でさえ、毎瞬毎瞬同じであることなどあり得ない。けれども私の心はひとつ、たったひとつの心。誰もが持っている心、それはときに大きくても、ときには小さくとも。

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