先日、根岸君夫画伯の個展の搬入、陳列、搬出のお手伝いに携わった折、搬出日に1点の自画像についてお話しを伺うことができた。30年前の頃のもので、そこに描かれた表情には他の自画像にはないような迷いや苦悩が現れていて、ご本人も最も気に入っている作品のひとつ、とのことであった。今回は自画像の展示数も大変多く、根岸君夫画伯の学生の頃から最近までのそれぞれの時の心や姿の様子の流れさえ映し出すような様でもあった。そんな中にあって、その1点の自画像の頃、その頃の私はご子息と盛んに交流していた頃でもあり、その迷いや苦悩に私がまったく関与していないわけでもなく、思い当たることもさながら実に感慨深い気持である。自分自身と向き合うことの難しさを痛感する昨今、こうした「自画像」という形で自分自身と向き合う画家の姿を体験し、その息の長い芸術の世界の在り方に身に沁みる思いをこうして感じることができた、これも私にとって今機会に得た大切なエピソードとなるだろう。
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